ファクタリングで資金化できるのは、実際の取引によって発生した売掛債権です。存在しない取引の請求書を作るだけでなく、請求額の水増しや入金済み債権の再利用、二重譲渡も重大な問題につながります。

本記事では、架空債権を使った主な手口や発覚するきっかけ、詐欺罪・返還請求などのリスクを解説します。単純な記載ミスとの違いや、不正利用を防ぐための確認方法も紹介するため、ファクタリングを検討している事業者は参考にしてください。

架空債権とは?ファクタリングとの関係

請求書を作成しただけで、ファクタリングによる資金化ができるわけではありません。

実際の取引と異なる内容を申告し、請求金額を水増ししたり、まだ発生していない売上を売掛債権として提出したりすると、単なる書類不備では済まない可能性があります。

架空債権とは実在しない取引から作られた売掛債権

架空債権とは、商品を納品していない、サービスを提供していないなど、売掛金が発生する原因となる取引が存在しないにもかかわらず、実在するように装った債権です。

ファクタリングにおける主な不正には、次のようなものがあります。

  • 存在しない取引をもとに請求書を作成する
  • 実際の請求金額に架空分を上乗せする
  • 入金済み・譲渡済みの債権を再利用する

請求書は、取引内容や請求金額を示す資料の一つです。しかし、請求書を発行しただけで売掛債権が生まれるわけではありません。

たとえば、300万円と記載した請求書を作成しても、その前提となる契約や納品などの事実がなければ、300万円の売掛債権が実在するとは認められません。

架空債権、水増し請求、入金済み債権の再利用など、具体的な不正の手口については次章で詳しく解説します。

ファクタリングは実在する売掛債権を売却する取引

ファクタリングは、事業者が保有する売掛債権を支払期日前にファクタリング会社へ売却し、手数料を差し引いた代金を受け取る資金調達方法です。

金融庁は一般的なファクタリングについて、事業者が保有する売掛債権などを支払期日前に買い取るサービスであり、法的には債権の売買にあたると説明しています。

審査では、請求書だけでなく、契約書や発注書、納品書、通帳の入出金履歴などを通じて、売掛債権が実在するかを確認します。

オンライン完結型のファクタリングでも、この基本的な審査の考え方は変わりません。

単純な記載ミスと意図的な虚偽申告は異なる

請求書の金額や支払期日を誤って記載しただけで、直ちに架空債権を使った不正と判断されるわけではありません。単純な入力ミスと、資金を多く受け取る目的で事実と異なる内容へ書き換える行為は区別されます。

たとえば、本来82万円の債権を誤って182万円と入力した場合でも、審査中に気付き、正しい請求書へ差し替えれば、書類不備として再確認されることがあります。一方、誤りを認識しながら説明せず、契約書や通帳画像まで加工して手続きを進めれば、意図的な虚偽申告を疑われる可能性があります。

重要なのは、誤りが故意によるものか、気付いた後に速やかに訂正したかという点です。金額や日付の不一致に気付いた場合は、審査結果を待たず、早い段階でファクタリング会社へ申告してください。

実務では請求書の形式だけで判断されない

実務上想定されるケースとして、次のような例があります。

建設業者から約240万円の買取相談がありました。

提出された請求書には工事代金が記載されていましたが、取引内容を確認したところ、実際には工事が行われておらず、申込者からは「知人の会社名を借りた」と説明がありました。

請求書の形式は整っていたものの、商品やサービスの提供実態を確認できなかったため、売掛債権として買い取ることはできませんでした。

実務上のポイント

ファクタリングへ申し込む際は、請求書を用意するだけでなく、商品やサービスの提供が完了し、売掛先に対する請求権が確定しているかを確認しましょう。まだ納品や作業が終わっていない場合は、一般的な確定債権のファクタリングでは対象外になることがあります。

架空債権を使ったファクタリングの主な手口

架空債権を利用した不正は、「存在しない会社の請求書を作る」といった分かりやすいものだけではありません。

実在する取引の金額を水増しする、すでに入金された請求書を再利用する、同じ債権を複数のファクタリング会社へ売却するなど、実際の取引に虚偽を混ぜる手口もあります。

一部に本物の情報が含まれていると、「完全な架空取引ではないから問題ない」と軽く考えてしまうことがあります。しかし、ファクタリング会社へ申告した内容が実際の取引と異なれば、重大な問題につながります。

ここでは、架空債権や不正利用につながる代表的な手口を解説します。

架空の請求書や取引先を作る

最も分かりやすい手口は、実際には存在しない取引をもとに請求書を作成する方法です。

たとえば、商品を納品していないにもかかわらず、納品済みであるように装い、売掛金が発生していると申告します。

具体的には、次のようなケースがあります。

  • 取引したことのない会社を売掛先として記載する
  • 実在しない会社名や住所を請求書に記載する
  • 知人や関係会社の名称を無断で使用する
  • 商品やサービスを提供していないのに請求書を発行する
  • 商談中の案件を契約済み・納品済みとして申告する
  • 将来受注する予定の仕事を売掛債権として提出する

売掛先が実在する会社であっても、実際の取引がなければ債権は存在しません。知人や関係会社の協力を得て請求書や確認内容を整えた場合も、商品やサービスの提供実態がなければ架空取引です。

請求金額や取引内容を水増しする

実在する取引に、根拠のない金額を上乗せする行為も不正利用にあたります。

完全な架空取引とは異なり、売掛先との取引自体は存在します。しかし、実際の商品納品やサービス提供を超える部分は、正当な売掛債権ではありません。

たとえば、実際の請求額が150万円であるにもかかわらず、請求書を250万円へ書き換えて申し込んだ場合、上乗せした100万円分には取引の裏付けがありません。

水増しに該当する主な例は、次のとおりです。

  • 商品の数量を実際より多く記載する
  • 単価を書き換えて請求額を増やす
  • 実施していない作業費や追加工事費を加える
  • 値引き後ではなく、値引き前の金額で申し込む
  • 分割請求した債権を一括請求のように見せる

一方、追加工事や仕様変更によって請求額が増えること自体は珍しくありません。重要なのは、増額の根拠となる取引が実際にあり、売掛先との合意を確認できるかどうかです。

正当な増額であれば、次のような資料で説明できます。

  • 変更契約書
  • 追加発注書
  • 追加分の見積書
  • 納品書や作業報告書
  • 売掛先とのメールやチャット
  • 増額後の金額が記載された検収書

こうした裏付けがなく、利用者側だけで請求金額を書き換えた場合は、水増し請求を疑われる可能性があります。

実務上のアドバイス

当初の契約金額から請求額が変わった場合は、変更理由と売掛先の合意を確認できる資料を残しておきましょう。特に追加工事や仕様変更が多い業種では、口頭だけで進めず、メールや追加発注書など記録に残る形で確認することが大切です。

未確定の売上を確定債権として申告する

案件が進行中であっても、直ちにファクタリングで売却できるとは限りません。

一般的なファクタリングで対象になるのは、商品やサービスの提供が完了し、請求額や支払期日が確定した売掛債権です。

次のような段階では、債権が確定していない可能性があります。

  • 見積書を提出しただけ
  • 発注の内示を受けただけ
  • 契約は締結したが、商品やサービスを提供していない
  • 工事や制作物が完成していない
  • 納品したものの、取引先の検収が終わっていない
  • 請求額について取引先と協議している
  • 成果報酬の条件を満たしていない

たとえば、工事請負契約を締結していても、工事が完了していない段階で「完成済み」と申告すれば、実際の取引内容とは異なる説明になります。

申込前には、売掛金がどの段階で確定する契約なのかを確認する必要があります。

入金済み・減額済み・消滅済みの債権を提出する

請求書を発行した後でも、売掛先からの入金や取引内容の変更によって、売却できる債権額が減少または消滅することがあります。

主なケースは、次の3つです。

  • 全額または一部がすでに入金されている
  • 返品、値引き、相殺などによって請求額が減っている
  • キャンセルや契約解除によって債権が消滅している

すでに売掛金が全額入金されていれば、売掛先に対する債権は残っていません。請求書のデータが手元にあっても、ファクタリングで売却できる債権は存在しないことになります。

一部だけ入金されている場合は、未回収残高を正確に確認しなければなりません。

たとえば、300万円の請求に対して100万円がすでに入金されていれば、未回収残高は原則として200万円です。元の請求書が300万円のまま残っていても、300万円全額を未回収債権として申し込むことはできません。

また、請求書の発行後に、商品の返品、値引き、相殺、キャンセル、契約解除などが発生した場合は、当初の請求額をそのまま申告してはいけません。

申込前に売掛金元帳と通帳を照合し、取引内容に変更がある場合は、訂正請求書や合意書などを提出して現在の債権額を明確にしましょう。

同じ売掛債権を複数社へ売却する

同じ売掛債権を複数のファクタリング会社へ譲渡する行為を、二重譲渡といいます。

架空債権は債権そのものが存在しないのに対し、二重譲渡では元の債権は実在しています。しかし、一度譲渡した債権を、まだ自社が保有しているように装って再び売却する点が問題です。

たとえば、次のような流れが該当します。

  1. 500万円の売掛債権をファクタリング会社X社へ譲渡する
  2. 同じ請求書を使ってファクタリング会社Y社へ申し込む
  3. X社へ譲渡済みであることを隠し、再び資金を受け取る

二重譲渡は、複数社へ見積もりを依頼することとは異なります。

契約前に複数社から見積もりを取り、手数料や契約条件を比較すること自体に問題はありません。ただし、1社と債権譲渡契約を締結した後は、同じ債権を別の会社へ売却できません。

なお、2社間ファクタリングで回収した売掛金を、契約に反して給与や仕入代金などへ流用する行為も、架空債権とは別の重大な契約違反です。

通帳・契約書の加工や売掛先へのなりすまし

架空債権や水増し請求を実在するように見せるため、関連書類を加工したり、売掛先の担当者になりすましたりする手口もあります。

具体的には、次のような行為です。

  • 通帳やインターネットバンキングの金額・名義を書き換える
  • 契約書、発注書、納品書、検収書を偽造する
  • メールやチャットの履歴を実際の取引のように作成する
  • 売掛先に似せたメールアドレスを用意する
  • 知人に売掛先の経理担当者を演じてもらう
  • 自社で管理している電話番号を売掛先の連絡先として申告する
  • 実在する担当者の氏名を無断で使用する

画像編集ソフトを使えば、数字や会社名を見た目上は変更できます。しかし、書類同士の整合性、銀行口座の履歴、売掛先への確認などを通じて、不自然な点が見つかる可能性があります。

たとえば、次のようなケースが考えられます。

約180万円の申込で、毎月同じ売掛先から入金されているように見える通帳画像が提出されました。

複数月の明細を確認すると、振込後の残高計算が合わず、数字の字体にもわずかな違いがありました。銀行から取得した正式な明細データの追加提出を依頼したところ、その後は連絡が取れなくなっています。

確認時には不正と断定して問い詰めるのではなく、「画像が不鮮明なので別の形式で確認したい」と伝え、客観的な資料の提出を求めました。

余談ですが、加工された書類は、派手な違和感ではなく、残高のわずかなズレや日付の並び方から見つかることがあります。審査では請求金額だけでなく、数字や取引履歴の連続性も確認されます。

注意点

提出書類が読みにくい場合は、内容を加工するのではなく、原本を撮り直すか、金融機関や会計ソフトから正式なデータを取得しましょう。売掛先への連絡を避けたい場合も、架空の電話番号やメールアドレスを使わず、申込前に確認方法をファクタリング会社へ相談してください。

水増し額が少額であっても、虚偽申告である点は変わりません。申込内容に誤りや変更がある場合は、審査を進める前に訂正し、正確な情報を提出できない債権はファクタリングへ持ち込まないでください。

架空債権や二重譲渡が発覚する主なきっかけ

架空債権や二重譲渡は、売掛先への確認、提出書類の照合、債権譲渡登記、支払期日の入金確認などを通じて発覚します。

売掛先への確認で取引が存在しないと判明する

架空債権が発覚する代表的なきっかけは、売掛先への事実確認です。

3社間ファクタリングでは、売掛先へ債権譲渡を通知し、承諾を得たうえで契約を進めます。そのため、売掛先が「その取引は存在しない」「請求金額が違う」と回答すれば、申込内容に問題があることが分かります。

2社間ファクタリングは、原則として売掛先へ通知せずに契約する方法です。ただし、申込内容に不自然な点がある場合や、契約上必要な確認がある場合まで、売掛先への連絡が一切行われないとは限りません。

売掛先への確認では、主に次の内容が確認されます。

  • 申込者との取引実績があるか
  • 商品やサービスが実際に提供されたか
  • 請求金額に間違いがないか
  • 支払期日はいつか

取引自体が存在していても、返品や値引きによって請求額が変更されていたり、申告した支払期日と実際の条件が異なっていたりすれば、追加資料や説明を求められることがあります。

また、請求書に記載された担当者が実在するか、申告された電話番号やメールアドレスが売掛先の正式な連絡先かを確認される場合もあります。

実務上のポイント

売掛先へ連絡されたくない場合は、申込前に確認方法を聞いておきましょう。ただし、連絡を避けるために担当者の電話番号やメールアドレスを偽る行為は、不正を疑われる原因になります。

提出書類や入金履歴の不一致から疑われる

ファクタリング審査では、請求書だけでなく、契約書や発注書、納品書、通帳などを照合し、売掛債権が発生するまでの流れを確認します。

通常の取引であれば、契約、発注、納品、請求、入金という一連の記録が残ります。書類同士の金額や日付が一致しない場合は、架空債権や水増し請求を疑われる可能性があります。

照合する資料主な不一致
請求書と契約書・発注書金額、数量、取引内容が一致しない
請求書と納品書・検収書納品日や業務の完了状況が一致しない
請求書と通帳・売掛金元帳入金額や未回収残高が一致しない
申込内容と法人情報会社名、所在地、連絡先が一致しない

たとえば、毎月100万円前後の取引しかない売掛先に対して、突然800万円の請求書が発行されていれば、増額した理由を確認されます。

通帳では、売掛先からの入金実績、振込名義、入金サイクル、一部入金の有無などが確認されます。請求書の会社名と振込名義が異なる場合や、すでに一部または全額が入金されている場合は、追加の説明や資料を求められることがあります。

ただし、振込名義が請求書の会社名と異なるだけで、直ちに不正と判断されるわけではありません。親会社や決済代行会社から入金される場合は、売掛先との関係や入金経路を確認できる資料を提出すると説明しやすくなります。

登記や他社への申込状況から二重譲渡が判明する

法人が保有する金銭債権については、債権譲渡登記が利用される場合があります。

債権譲渡登記制度は、法人による債権譲渡について、第三者に対する対抗要件を備えるための制度です。

ファクタリング会社が登記内容を確認し、同じ売掛債権がすでに別の会社へ譲渡されていると分かれば、二重譲渡が疑われます。

ただし、すべてのファクタリング契約で債権譲渡登記が行われるわけではありません。登記を留保して契約する会社もあるため、「登記がなければ他社に分からない」と考えるのは危険です。

請求書番号、売掛先、請求金額、支払期日、過去の申込内容などから、同じ債権の重複が見つかることもあります。

複数のファクタリング会社から見積もりを取ること自体に問題はありません。手数料や入金額、契約条件を比較するため、契約前に複数社へ相談することは一般的です。

問題になるのは、1社と債権譲渡契約を締結した後も、同じ債権を自社が保有しているように説明し、別の会社へ再び売却する行為です。

契約する会社を決めた後は、ほかの会社へ申込辞退を伝え、同じ債権で複数の契約を締結しないようにしてください。

支払期日の未入金から発覚する

架空債権が契約前の審査で見つからなくても、売掛金の支払期日を迎えると問題が表面化することがあります。

実在しない債権であれば、売掛先から売掛金が支払われることはありません。

2社間ファクタリングでは、売掛先から利用者の口座へ入金された売掛金を、利用者がファクタリング会社へ送金する契約が一般的です。支払期日を過ぎても送金されなければ、入金状況や取引内容をあらためて確認されます。

この段階で、次のような事実が判明する場合があります。

  • 売掛先との取引自体が存在しなかった
  • 請求書が契約前にキャンセルされていた
  • 実際の支払期日が申告内容と異なっていた
  • 売掛金がすでに別口座へ入金されていた
  • 同じ債権を別のファクタリング会社へ譲渡していた

ただし、売掛先の都合で支払いが遅れている可能性もあるため、未入金だけで直ちに不正と断定されるわけではありません。

次のような例があります。

午後3時ごろに契約を終え、約320万円が入金されたものの、支払期日になっても回収金が送金されませんでした。

利用者は当初、「売掛先の都合で2日遅れている」と説明していました。しかし、提出されたメールには送信日時や返信履歴がなく、売掛先へ確認したところ、対象の請求書は契約前に取り消されていたことが分かりました。

契約時点ですでに有効な債権ではなく、さらに事実と異なる説明が続いたため、法務担当を交えて対応することになった事例です。

実務上のアドバイス

申込後に返品、値引き、キャンセル、支払期日の変更などが発生した場合は、入金前・入金後にかかわらず、早めにファクタリング会社へ連絡してください。変更を隠すよりも、現在の正しい債権額や取引状況を共有する方が、問題の拡大を防げます。

不一致があっても直ちに架空債権とは限らない

書類や入金履歴に不一致があっても、必ず架空債権と判断されるわけではありません。

実務では、次のような正当な理由によって、請求書や通帳の内容が一致しないこともあります。

  • 売掛先の親会社名義で代金が入金された
  • 売掛先との合意によって支払期日が変更された
  • 経理担当者が古い請求書を誤って提出した

このような場合は、不一致が生じた理由を説明し、変更契約書、メール、入金明細などの裏付け資料を提出すれば確認できることがあります。

重要なのは、書類を無理に書き換えて内容を合わせることではありません。数字や日付の違いに気付いた場合は、正しい情報を申告し、不一致が生じた経緯を説明してください。

架空債権を利用した場合の法的責任と経営への影響

架空債権をファクタリング会社へ提出すると、審査に落ちるだけでは済まない場合があります。

存在しない売掛債権を実在するものと説明し、その説明を信じたファクタリング会社から買取代金を受け取れば、刑事責任を問われる可能性があります。さらに、契約解除や買取代金の返還、損害賠償を求められ、取引先や金融機関との信用関係にも影響が及びます。

ただし、請求書の記載ミスや取引条件の変更が見つかっただけで、直ちに犯罪が成立するわけではありません。故意に虚偽の説明をしたのか、どのような書類を提出したのか、実際に資金を受け取ったのかなど、個別の事情によって判断は異なります。

詐欺罪や詐欺未遂に問われる可能性がある

刑法第246条では、人を欺いて財物を交付させた場合の詐欺罪が定められています。

架空債権を使ったファクタリングでは、次のような流れが問題になります。

  1. 実際には存在しない売掛債権を用意する
  2. ファクタリング会社へ実在する債権だと説明する
  3. 請求書や契約書などを提出して審査を受ける
  4. ファクタリング会社が説明を信じて買取代金を支払う

このような方法で資金を受け取った場合、ファクタリング会社を欺いて金銭を交付させたとして、詐欺罪に問われる可能性があります。詐欺罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑です。

また、審査中に不正が発覚し、買取代金を受け取れなかった場合でも、架空の請求書を提出するなど、資金を交付させるための具体的な行動を始めていれば、詐欺未遂が問題になる可能性があります。

判断する際は、主に次のような事情が確認されます。

  • 売掛債権が実際に存在していたか
  • 申込者が虚偽であることを認識していたか
  • ファクタリング会社を欺く意図があったか
  • 資金を受け取ったか、自ら誤りを訂正したか

たとえば、経理担当者が請求額を誤入力し、審査中に気付いて訂正した場合と、資金を多く受け取る目的で請求額を意図的に水増しした場合とでは、行為の意味が異なります。

単純な入力ミスや取引条件の変更まで、直ちに犯罪となるわけではありません。故意の有無や、誤りに気付いた後の訂正対応などを踏まえて個別に判断されます。

重要なポイント

「入金後に返すつもりだった」という事情だけで、問題がなくなるわけではありません。存在しない債権を実在すると説明して資金を受け取った場合は、返還する意思の有無とは別に、申込から入金までの行為が確認されます。

契約書・通帳などの偽造も別の法的問題になる

架空債権を実在するように見せるため、他社名義の契約書を作成したり、通帳画像を書き換えたりすると、詐欺罪とは別の法的責任が問題になる場合があります。

具体的には、次のような行為です。

  • 他社名義の契約書や発注書を無断で作成する
  • 売掛先担当者の署名や押印を偽造する
  • 契約書の金額や日付を書き換える
  • 通帳画像や電子データの入金額・名義を加工する

偽造した書類をファクタリング会社へ提出すれば、虚偽の取引を信用させるために使用した資料として確認されます。

一方、請求書は自社名義で発行することが多いため、虚偽の請求書を作成しただけで、直ちに私文書偽造罪が成立するとは限りません。ただし、内容を偽って資金を受け取ろうとした場合は、詐欺に関する重要な判断材料になります。

また、通帳やインターネットバンキングの画面、会計ソフトのデータなどを加工した場合も、「電子データだから問題にならない」と考えるべきではありません。不正な資金調達に使われれば、詐欺行為を裏付ける証拠になる可能性があります。

書類の種類、名義、加工方法、使用目的によって法的な判断は異なるため、具体的な事案は弁護士へ確認する必要があります。

契約解除・返還・損害賠償を求められる

架空債権や重大な虚偽申告が判明した場合、ファクタリング会社から契約を解除され、受け取った買取代金の返還を求められる可能性があります。

一般的なファクタリング契約では、利用者に対して次のような内容が求められます。

  • 売掛債権が実在すること
  • 提出書類や申告内容が正確であること
  • 債権が未回収で、他社へ譲渡されていないこと
  • 相殺や取消し、売掛先との重大な争いがないこと

これらに反した場合は、契約内容に基づき、次のような請求を受けることがあります。

  • 買取代金の返還
  • 契約書で定められた違約金
  • 遅延損害金
  • 債権の調査費用
  • 弁護士費用や訴訟対応費用
  • 不正によって生じた損害の賠償

ただし、契約書に記載されている費用であれば、どのような金額でも当然に有効になるとは限りません。請求額や違約金が著しく高額な場合は、請求根拠や契約条項について法的な確認が必要になることもあります。

また、売掛先が契約後に倒産しただけで、利用者に必ず返還義務が生じるわけではありません。ノンリコース契約では、利用者に虚偽や契約違反がなければ、原則として売掛先の信用リスクはファクタリング会社が負います。

一方、債権が最初から存在しなかった、入金済みであることを隠した、同じ債権を複数社へ譲渡した場合は、通常の貸倒れとは異なり、契約違反や返還請求の対象となる可能性があります。

経営者だけでなく担当者も責任を問われる場合がある

架空債権の作成や提出に複数の従業員が関与した場合、会社や経営者だけでなく、実際に書類を作成・提出した担当者の責任も問題になる可能性があります。

たとえば、次のような関与です。

  • 経営者の指示を受けて架空の書類を作成する
  • 虚偽と知りながら請求書や契約書を提出する
  • 売掛先の担当者になりすまして確認へ回答する

上司から指示された場合でも、虚偽であることを認識しながら積極的に不正へ関与すれば、「指示に従っただけ」で必ず責任を免れられるとは限りません。

一方、担当者が不正を知らず、通常の業務として書類を作成または送信しただけであれば、本人の認識や関与の程度が確認されます。

担当者へのアドバイス

口頭で「この金額に直しておいて」と指示された場合は、変更理由と根拠資料を確認してください。説明できない金額変更や、原本と異なる書類の作成を求められたときは、作業を止め、指示内容を記録したうえで、社内窓口や弁護士へ相談することが大切です。

信用低下と返還負担で資金繰りが悪化する

架空債権による問題は、刑事責任や返還請求だけにとどまりません。

不正が発覚すると、次のような経営上の影響が生じる可能性があります。

  • ファクタリング会社との取引を停止される
  • 売掛先や金融機関との信用関係が悪化する
  • 社内調査や関係者の処分が必要になる
  • 今後の資金調達が難しくなる

すべてのファクタリング会社が共同で利用する公的な「ブラックリスト」が存在すると断定することはできません。

ただし、同じファクタリング会社へ再度申し込んだ場合には、過去の申込内容や契約状況が確認される可能性があります。また、不正が刑事事件や訴訟に発展すれば、取引先や金融機関による信用判断へ影響することも考えられます。

実務をもとにした事例では、約280万円の返還について相談がありました。

対象となった請求書には実際の取引が含まれていたものの、そのうち約90万円分は、契約時点でまだ実施されていない作業でした。申込者は「翌月には作業する予定だった」と説明しましたが、申込時点では確定した売掛債権ではありません。

申込者は受け取った買取代金の大半を外注費へ支払っており、手元資金は20万円を下回っていました。そのため、不足分をすぐに返還できず、専門家を交えて対応を協議することになりました。

資金繰りを改善するための申込であっても、架空分や未確定分が含まれていれば、返還債務や対応費用が新たに発生します。一時的に資金を得られても、結果として資金繰りがさらに悪化する可能性があります。

法的責任は個別の事情によって異なる

架空債権に関する責任は、提出した書類、契約内容、本人の認識、資金の受領状況などによって異なります。

特に、次のような状況では、早めに弁護士へ相談してください。

  • すでに買取代金を受け取っている
  • 同じ債権を複数の会社へ譲渡している
  • 返還や損害賠償を請求されている
  • 警察から連絡を受けている

問題が発覚した後に、書類やメールを削除したり、新しい資料を作って説明を合わせたりすると、状況がさらに悪化するおそれがあります。

契約書、請求書、通帳、メール、チャット、社内の指示記録などを保存し、確認できる事実を時系列で整理したうえで相談することが重要です。

架空債権や不正利用を防ぐための対策

架空債権によるトラブルは、申込者が意図的に不正を行った場合だけに起こるものではありません。

経理担当者の入力ミス、部署間の情報共有不足、入金済み債権の重複提出など、社内管理の不備から問題が生じることもあります。

特に、複数の担当者が請求書の発行や資金調達に関わる会社では、「誰が、どの売掛債権を、どのファクタリング会社へ提出したか」を把握できていないケースがあります。

不正利用や提出ミスを防ぐには、担当者個人の注意だけに頼らず、債権の確認から申込までを社内の仕組みとして管理することが重要です。

申込前に債権の内容と未回収残高を確認する

ファクタリングへ申し込む前に、請求書と取引の実態を確認できる資料を照合しましょう。

主な確認資料は次のとおりです。

  • 契約書・発注書
  • 納品書・検収書
  • 請求書
  • 売掛金元帳
  • 通帳の入出金履歴

書類がそろっているかだけでなく、売掛先、取引内容、請求金額、支払期日、納品状況などが一致しているかを確認する必要があります。

確認項目申込前に確認する内容
売掛先実在する事業者で、実際の取引があるか
取引内容商品の納品やサービスの提供が完了しているか
請求金額契約書や発注書と一致し、金額が確定しているか
支払期日請求書や契約条件と一致しているか
納品・検収納品書や検収書で完了を確認できるか
入金状況一部入金、全額入金、相殺が発生していないか
譲渡状況同じ債権をすでに他社へ譲渡していないか

請求書を発行してから申込を行うまでに、一部または全額が入金されることもあります。

たとえば、請求額が300万円で、申込前に50万円が入金されていれば、未回収残高は原則として250万円です。請求書に300万円と記載されていても、その全額を未回収債権として申し込むことはできません。

また、請求書の発行後に、返品、値引き、追加作業、キャンセル、相殺、支払期日の変更などが発生する場合もあります。

変更があったときは、訂正請求書や変更契約書、売掛先とのメールなどを用意し、申込時点の正しい債権額と取引状況を説明してください。

建設業や制作業などでは、追加工事や仕様変更によって当初の契約金額と最終的な請求額が異なることがあります。金額が変わったこと自体が問題なのではなく、増減の理由と売掛先の合意を資料で確認できることが重要です。

実務上のポイント

ファクタリング会社へ提出する資料は、取引ごとに一つのフォルダへまとめておくと確認しやすくなります。請求書、発注書、納品書、通帳を取引単位で整理することで、提出漏れや金額の不一致を防ぎやすくなります。

請求・入金・ファクタリング利用を一元管理する

請求書の作成からファクタリングの申込までを一人の担当者に任せると、誤りや不正が発見されにくくなります。

小規模な会社で完全な分業が難しい場合でも、請求書の発行前とファクタリングの申込前に、別の担当者が取引内容と金額を確認する仕組みは作れます。

たとえば、一定金額以上の売掛債権を申し込む場合は、代表者や経理責任者の承認を必要とするルールを設ける方法があります。

二重譲渡や入金済み債権の誤提出を防ぐため、売掛債権の管理台帳も作成しましょう。

管理項目記載内容
売掛先請求先の会社名
請求書番号対象となる請求書の番号
請求額・未回収残高当初の請求額と現在残っている金額
支払期日売掛金の入金予定日
入金状況未入金・一部入金・入金済み
ファクタリング利用・譲渡状況未申込・見積もり中・契約済み・譲渡済み

ファクタリングを利用した債権には「譲渡済み」、売掛先から入金された債権には「入金済み」と記録し、ほかの担当者が再び申し込めない状態にしておくことが重要です。

請求書を共有フォルダで管理している場合は、ファイル名にも状態を記載すると確認しやすくなります。ただし、ファイル名だけでは変更履歴を把握しにくいため、管理台帳と併用してください。

また、部署ごとにファクタリング会社へ相談できる状態では、同じ債権が複数回申し込まれるおそれがあります。

申込窓口は経理部門や財務責任者へ一本化し、次の情報を共有しましょう。

  • どの債権で見積もりを依頼しているか
  • どのファクタリング会社へ書類を提出したか
  • 契約を締結した会社はどこか
  • 対象債権がすでに譲渡済みか

複数社から見積もりを取ること自体に問題はありません。ただし、契約を締結するのは1社だけです。契約先が決まった時点で、ほかの会社への申込は取り下げてください。

審査では正確な情報と原本資料を提出する

ファクタリングの審査では、売掛先との取引期間、請求内容、支払期日、過去の入金状況などを確認されます。

審査を通りやすくするために、取引期間を実際より長く説明したり、単発の取引を継続取引のように見せたりしてはいけません。

取引期間が短い、通常より請求額が大きい、一部入金があるなど、不利に見える事情があっても、事実を正確に伝えることが重要です。合理的な理由と裏付け資料があれば、その内容を踏まえて審査される場合があります。

提出書類の文字が小さい、画像が暗い、不要な取引履歴が含まれているといった理由で、資料を自己判断で加工するのも避けましょう。

書類が読みにくい場合は、次の方法で対応してください。

  • 明るい場所で原本を撮り直す
  • 書類全体が入るように撮影する
  • PDF形式の原本を再取得する
  • 金融機関から正式な明細を取得する
  • 会計ソフトから元データを出力する
  • 開示できない情報がある場合は提出方法を相談する

数字や会社名を変更していなくても、不自然な切り抜きや塗りつぶしがあると、追加確認や再提出を求められる可能性があります。

また、経営者や上司から不正な書類作成を指示された場合も、安易に従ってはいけません。

特に、次のような指示を受けた場合は作業を止めてください。

  • 実際より高い金額の請求書を作成する
  • 取引先名義の契約書や発注書を作成する
  • 通帳や取引履歴の数字を書き換える

虚偽と知りながら不正な書類を作成・提出すれば、指示を受けた担当者も責任を問われる可能性があります。

可能であれば、指示を受けた日時、内容、指示者を記録し、社内の相談窓口や弁護士などへ相談してください。

ファクタリングが向いていない場合は別の方法を選ぶ

不正利用を防ぐ最も確実な方法は、売却できる債権がない状態でファクタリングを利用しないことです。

次のような場合は、一般的な請求書ファクタリングの対象にならない可能性があります。

  • 売掛債権を保有していない
  • 商品やサービスをまだ提供していない
  • 納品や検収が完了していない
  • 請求額や支払期日が確定していない
  • 売掛金がすでに入金されている
  • 対象債権をすでに他社へ譲渡している

このような状況で、無理に請求書を作成したり、金額や日付を書き換えたりしてはいけません。

売却できる債権がない場合は、次のような別の方法を検討しましょう。

  • 金融機関や日本政策金融公庫への融資相談
  • 自治体や信用保証協会を利用した制度融資
  • 支払先との条件交渉や税金・社会保険料の猶予相談

ファクタリングは、すでに保有している売掛債権の入金時期を早める方法です。売掛債権が存在しない状態で利用する資金調達方法ではありません。

実務では申込直前の確認が不正防止につながる

たとえば、次のようなケースが考えられます。

午後1時ごろ、運送業者から約190万円のファクタリング申込がありました。

提出された請求書と過去の入金履歴に問題はありませんでしたが、審査中に経理担当者が通帳を再確認したところ、同日の午前9時過ぎに売掛先から全額が入金されていました。

担当者はすぐにファクタリング会社へ連絡し、申込を取り下げています。

請求書を提出した時点では未入金だったため、意図的な不正ではありません。申込後に入金へ気付き、自ら連絡したことで、問題なく手続きを終了できました。

申込前だけでなく、審査中にも入金状況や取引内容が変わる可能性があります。変更に気付いた場合は、その時点で正しい情報を申告することが大切です。

申込前の最終チェック

ファクタリングへ申し込む前に、次の項目を最終確認しましょう。

  • 売掛債権は実在しているか
  • 商品の納品やサービスの提供は完了しているか
  • 請求額と支払期日は確定しているか
  • 一部または全額が入金されていないか
  • 値引き、返品、相殺が発生していないか
  • 同じ債権をすでに他社へ譲渡していないか

架空債権や二重譲渡は、資金繰りが苦しくなってから急いで対策するのではなく、日頃の請求・入金管理によって防ぐことが重要です。

取引資料を整理し、複数人で確認できる体制を整えることで、意図的な不正だけでなく、単純な提出ミスや重複申込も防ぎやすくなります。

まとめ|架空債権は資金繰りをさらに悪化させる

架空債権とは、実際には存在しない取引をもとに、売掛債権があるように装ったものです。ファクタリングは実在する売掛債権を支払期日前に売却する資金調達方法であり、請求書を作成しただけで債権が成立するわけではありません。

取引のない会社宛てに請求書を作るだけでなく、請求金額を水増しする、入金済みの債権を再利用する、未確定の売上を確定債権として申告する、同じ債権を複数社へ譲渡するといった行為も重大な問題につながります。

虚偽の申告によって買取代金を受け取れば、詐欺罪に問われる可能性があるほか、契約解除、買取代金の返還、損害賠償などを求められる場合があります。ファクタリング会社との取引停止や、売掛先・金融機関からの信用低下によって、今後の資金調達や事業継続に影響するおそれもあります。

不正利用を防ぐには、申込前に契約書、請求書、納品書、売掛金元帳、通帳などを確認し、債権の実在性や未回収残高、他社への譲渡状況を正確に把握することが重要です。誤りや取引内容の変更に気付いた場合は、書類の辻褄を合わせようとせず、手続きを止めて正しい情報を申告してください。すでに買取代金を受け取っている場合や二重譲渡が判明した場合は、関係資料を保存したうえで、早めに弁護士へ相談しましょう。早めに訂正することが、会社の信用と事業継続を守るための現実的な対応です。

この記事の著者

松本 香織

松本 香織(資金調達マップ編集部)

資金調達マップ編集部のシニアエディター。ファクタリングやビジネスローン、公的融資、補助金制度など、ジャンルを問わず幅広い記事の編集・監修を担当している。読者である事業者の目線に立ち、実務で本当に役立つ情報かどうかを重視した記事づくりを心がけ、編集部内の情報発信の正確性と信頼性を支えている。

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