事業承継・M&A補助金は、会社の引継ぎや企業の買収に関する費用を支援する補助金です。
複数の枠が用意されていますが、本記事では、会社を引き継ぎたい・会社を引き継いでほしい方が使える「事業承継促進枠」に焦点を当てて解説します。
15次公募の申請受付期間は2026年6月19日から2026年7月24日17時までです。申請はJグランツ(補助金の電子申請システム)のみで受け付けており、利用には「GビズIDプライム」のアカウントが必要です。GビズIDプライムの取得には通常1〜2週間、混雑時は3週間程度かかる場合があるため、まだ取得していない方は早めに手続きを進めておくことをおすすめします。
1.事業承継・M&A補助金とは
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者等が事業承継やM&Aに際して行う設備投資等や、事業承継・事業再編及び事業統合に伴う経営資源の引継ぎに係る経費の一部を補助することによって、事業承継・事業再編及び事業統合を促進し、我が国経済の活性化を図ることを目的とした補助金です。
15次公募では、補助の対象となる取組内容や経費の種類に応じて「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」「PMI推進枠」の4つの枠で補助が行われます。このうち専門家活用枠はM&Aを検討している事業者が専門家に支払う費用(仲介手数料やデューデリジェンス費用など)を対象とする枠で、PMI推進枠はM&A成立後の経営統合に取り組む経費を対象とする枠、廃業・再チャレンジ枠は事業を廃業する際の費用を対象とする枠です。
本記事で取り上げる「事業承継促進枠」は、親族内承継や従業員承継という形で会社を引き継ぐ予定のある方、または引き継いでほしい方に関係する枠です。なお、公募要領では事業承継促進枠と専門家活用枠・PMI推進枠は同一公募回での同時申請が認められていないため、どちらに申請するかは事前にしっかりと整理しておく必要があります。
2.事業承継促進枠の対象になる人
事業承継促進枠の対象は、公募申請期限日(2026年7月24日)から5年以内、つまり2031年7月23日までに、親族内承継または従業員承継を予定している中小企業者等です。
代表的な場面としては、親が長年営んできた会社やお店を子どもが引き継ぐケース、あるいは長く勤めてきた従業員が現経営者から事業を受け継ぐケースが挙げられます。承継を機に老朽化した設備を更新したい、後継者が営業しやすいように店舗や事務所を整備したいという方に関係する補助金です。
ただし、誰でも対象になるわけではなく、承継予定者(後継者)には公募要領上の要件が定められています。法人の場合は「対象会社の役員として3年以上の経験を有する者」「対象会社に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験を有する者」「役員・雇用経験を通算3年以上有する者」「被承継者の親族であり、対象会社の代表経験が無い者」のいずれかに該当することが必要です。個人事業主の場合は「個人事業に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験を有する者」または「被承継者の親族であること(ただし過去に承継対象事業の代表経験が無い者)」が要件となります。
また、法人であれば申請時点で3期分の決算・申告が完了していること、個人事業主であれば青色申告者であり開業届・青色申告承認申請書の提出から5年が経過していることも必要です。なお、個人事業主の場合は被承継者と承継予定者の共同申請が必須となる点も、法人の申請と異なる重要なポイントです。
さらに、M&Aによる第三者への事業承継(株式譲渡による第三者承継など)は、この枠の対象外です。「グループ内の事業再編」「物品・不動産等のみを保有する事業の承継」なども対象外とされていますので、自分の状況が要件に該当するかどうかは、公募要領の詳細をよく確認するか、事務局の問い合わせ窓口に確認することをおすすめします。
3.事業承継促進枠で使える費用
事業承継促進枠で補助の対象となるのは、承継を契機として承継予定者が主導して取り組む生産性向上等に係る取組に必要な経費です。公募要領では「設備費」「産業財産権等関連経費」「謝金」「旅費」「外注費」「委託費」が補助対象経費の区分として定められています。
イメージしやすいのは設備費です。たとえば、長年使ってきた機械が老朽化しているため、承継を機に新しい設備に入れ替える費用や、後継者が営業しやすいように店舗・事務所の工事をするための費用が該当します。業務の一部を外部に委託するための外注費や、専門家に支払う謝金なども対象となる場合があります。
一方で、いくつか重要な注意点もあります。まず、事業承継そのものにかかる費用(被承継者から資産や土地を買い取る費用など)は補助対象外です。また、売上原価に相当すると事務局が判断する経費も対象外となります。補助対象経費は「通常の設備投資なら何でも対象」というわけではなく、承継後の生産性向上につながる取組として計画の中に位置づけられていることが前提となります。
公募要領では、「補助事業期間を含む5年間の補助事業計画において、付加価値額または1人当たりの付加価値額の伸び率が3%/年の向上を含む計画」であることが補助対象事業の要件の一つとされています。付加価値額とは、法人の場合は「営業利益+人件費+減価償却費」、個人事業主の場合は「営業利益+減価償却費+福利厚生費+給料賃金」として計算されます。この計画の蓋然性が高いことについて、認定経営革新等支援機関(国が認定した税理士・中小企業診断士・金融機関などの専門機関)から確認書の発行を受けることが申請の必須条件となっています。
また、補助対象経費として申請する際は、原則として2者以上からの相見積もりが必要です。相見積もりを取得せずに発注した場合は補助対象外となるため、発注先が決まっている場合でも、事前に複数の見積もりを取得しておくことが大切です。
4.補助額・補助率
補助上限額と補助率は、事業者の規模と賃上げへの取組みによって異なります。
| 区分 | 補助上限額 | 補助率(800万円以内の部分) |
|---|---|---|
| 小規模事業者・賃上げ実施 | 1,000万円 | 2/3以内(800万円超は1/2以内) |
| 小規模事業者・賃上げなし | 800万円 | 2/3以内 |
| 上記以外・賃上げ実施 | 1,000万円 | 1/2以内 |
| 上記以外・賃上げなし | 800万円 | 1/2以内 |
※横にスクロールして確認できます >
補助下限額は100万円で、補助率に応じて少なくとも150万円〜200万円程度の補助対象経費が必要です。
ここで言う「小規模事業者」とは、製造業その他の場合は従業員20人以下、商業・サービス業は5人以下、宿泊業・娯楽業は20人以下の事業者を指します。自社が小規模事業者に該当するかは、公募要領の定義を確認してください。
補助上限額を800万円から1,000万円に引き上げるためには、補助事業完了後の翌年度に、従業員1人当たりの給与支給総額を3%以上引き上げることが必要です。この賃上げ要件は申請時に誓約書と従業員への表明書を提出する形で確認され、後日の事業化状況報告でも達成状況が確認されます。目標を達成できなかった場合は補助上限の引き上げ分(最大200万円)の返還が求められます。
なお、廃業・再チャレンジ枠との併用申請をする場合は、上記に加えて廃業費として最大300万円の上乗せが可能です。
5.申請期間と申請方法
15次公募の申請受付期間は、2026年6月19日(金)から2026年7月24日(金)17時までです。この期日は厳守とされており、締切を過ぎた申請は一切受け付けられません。
申請はJグランツのみで受け付けており、郵送・持参による申請はできません。Jグランツを利用するには「GビズIDプライム」のアカウントが必要です。GビズIDプライムは、印鑑証明書の原本と実印を押した申請書を郵送することで発行を受けられるアカウントで、法人代表者や個人事業主のメールアドレスとSMS受信可能な電話番号も必要となります。取得には通常1〜2週間、混雑時は3週間程度を要するため、まだ取得されていない方はすぐに手続きを始めてください。
事務局は、申請期日の5営業日前(2026年7月16日)までの提出を推奨しています。締切直前に申請が集中すると、事務局からの不備指摘への対応が間に合わなくなり、結果として不採択になる可能性があるためです。余裕をもって提出することをお勧めします。
申請の流れとしては、①公募要領の確認→②認定経営革新等支援機関の選定→③GビズIDプライムの取得→④必要書類の準備→⑤事業承継計画・補助事業計画の策定→⑥認定支援機関から確認書の発行を受ける→⑦Jグランツで申請、という手順で進めます。認定支援機関への依頼は時間がかかる場合があるため、申請締切の直前ではなく、余裕をもって依頼することが重要です。
また、ここで押さえておきたい重要な注意点があります。補助対象経費の契約・発注ができるのは交付決定日以降でなければなりません。採択の通知を受けた後も、交付申請を経て「交付決定通知」を受け取るまで、設備の発注・契約・支払いを行うことはできません。FAQでも「採択と交付決定は同意ではない」と明記されており、採択後すぐに動いてしまうと補助対象外となりますので、必ず交付決定通知の受領後に実際の調達を開始してください。
6.申請前に確認しておきたいこと
申請を検討されている方は、以下の点を事前に整理しておくとスムーズです。
まず、GビズIDプライムをすでに取得しているかどうかを確認してください。未取得の場合は今すぐ手続きを始める必要があります。
次に、承継の内容と要件の確認です。誰から誰へ、いつ頃、どのような形(同一法人内での代表者交代か、個人事業主間の事業譲渡か)で引き継ぐ予定なのかを具体的に整理しておきましょう。承継予定者が公募要領上の要件(役員・雇用経験年数、または親族関係)を満たしているかも必ず確認してください。
補助対象となる費用については、どのような設備投資や工事を予定しているのか、それが承継後の生産性向上にどのようにつながるのかを明確にしておくことが大切です。認定経営革新等支援機関への確認書取得依頼の際にも、この内容を具体的に説明できることが求められます。
認定経営革新等支援機関については、中小企業庁のWebサイト上に検索サイトが用意されています。申請締切に余裕をもって相談を始めてください。
必要書類の全体像は、事務局Webサイトの「必要書類チェックリスト」で確認できます。公募申請書(別紙)、認定経営革新等支援機関の確認書、事業承継計画表、事業承継実施に係る誓約書などが必要で、法人か個人事業主かによって追加書類が異なります。
7.よくある質問
Q1. M&Aによる事業承継も「事業承継促進枠」の対象になりますか?
対象になりません。公式Q&Aでも明確に、M&Aによる事業承継は事業承継促進枠の対象外であることが示されています。事業承継促進枠が認める承継形態は、法人の場合は同一法人内での代表者交代、個人事業主の場合は事業譲渡に限られます。株式譲渡を通じた第三者への事業承継も対象外です。
M&Aに関する専門家費用(仲介手数料・デューデリジェンス費用・コンサルティング費用など)については、別の枠である「専門家活用枠」の公募要領をご確認ください。
Q2. すでに事業承継が終わっている場合でも申請できますか?
原則として、すでに事業承継が完了している場合は対象外となります。事業承継促進枠では、15次公募の事業承継対象期間が2026年7月24日から2031年7月23日までと定められています。そのため、2026年7月24日より前に事業承継が完了している場合は、この枠の対象になりません。すでに承継が完了している場合や、承継の時期が判断しづらい場合は、公募要領を確認したうえで、事務局に問い合わせることをおすすめします。
Q3. 個人事業主でも申請できますか?
要件を満たせば個人事業主も申請できます。ただし、青色申告者であること、および開業届・青色申告承認申請書の提出から5年が経過していることが必要です。白色申告の方は対象外となります。また、個人事業主の場合は、被承継者と承継予定者の共同申請が必須となる点が法人と異なります。詳細は公募要領の「7.申請単位」をご確認ください。
Q4. 採択されたらすぐに設備を発注してもいいですか?
採択の通知が届いても、すぐに発注することはできません。採択後に交付申請を行い、交付決定通知を受け取ってから補助事業を開始できます。補助対象経費となるのは「交付決定日以降に契約・発注し、補助事業期間内に支払いが完了した経費」です。交付決定前に契約・発注・支払いを行った費用は一切補助対象外となります。この点は特に注意が必要です。
Q5. 必要書類はどこで確認できますか?
事務局Webサイトの「事業承継促進 公募要領等ダウンロード」ページ(https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/15-succession_download/)から確認できます。公募要領のほか、申請手続きページには必要書類チェックリストやJグランツ申請フォーム項目定義書なども掲載されています。申請前にまず必要書類チェックリストをダウンロードして、準備状況を一つひとつ確認することをおすすめします。
8.まとめ
本記事では、事業承継・M&A補助金15次公募のなかから「事業承継促進枠」に絞って解説しました。
この枠は、親族内承継や従業員承継を予定している中小企業・小規模事業者が、承継後の生産性向上につながる設備投資や工事を行う際に経費の一部を補助してもらえる制度です。補助上限額は条件に応じて800万円から最大1,000万円、補助率は事業者の規模によって1/2または2/3となっています。
申請期間は2026年7月24日17時までです。GビズIDプライムの取得、認定経営革新等支援機関への相談・確認書取得、必要書類の準備には時間がかかるため、今すぐ準備を始めることが大切です。事務局は5営業日前(7月16日)までの申請を推奨しています。
事業承継に合わせて設備投資や改装を検討されている方は、まず公募要領と必要書類チェックリストの確認から始めてみてください。
公式情報:事業承継促進 公募要領等ダウンロード
公式情報:事業承継促進 公募申請手続き
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