
M&Aは、契約が成立すれば終わりというものではありません。
むしろ大切なのは、その後に譲り受けた会社の従業員や顧客、業務の進め方をどのように引き継ぎ、自社の体制に馴染ませていくかです。
産業機械メンテナンス業を営む株式会社NのKさんも、同業の会社を譲り受けたあと、案件管理や見積基準、従業員対応など、M&A後の統合作業に悩んでいました。
そこで活用したのが、事業承継・M&A補助金「PMI推進枠(PMI専門家活用類型)」です。
本記事では、株式会社Nが補助金を活用し、PMI専門家の支援を受けながら、M&A後の現場統合と管理体制の整備に取り組んだ体験談を紹介します。
M&A後に見えてきた現場統合の課題
株式会社Nは、工場向けの産業機械や生産設備の保守・点検・修理を行う会社です。
代表のKさんは、事業拡大と技術者の確保を目的に、同業の会社を譲り受けました。
譲受によって、株式会社Nは新しい顧客基盤と経験豊富な技術者を引き継ぐことができました。
Kさんにとっても、今後の対応エリアを広げるうえで、大きな一歩となるM&Aでした。
しかし、実際に統合作業を始めると、想定していた以上に多くの課題が見えてきました。
特に大きかったのが、業務の進め方の違いです。
案件管理の方法、見積金額の決め方、点検履歴の残し方、部品在庫の管理方法などが、株式会社Nとは大きく異なっていました。
たとえば、株式会社Nでは案件ごとの進捗を社内で共有していましたが、譲受先では紙の台帳や担当者ごとのExcelで管理している部分が多くありました。
そのため、どの案件がどこまで進んでいるのか、どの部品が必要なのかを確認するのに時間がかかっていました。
また、見積金額の出し方にもばらつきがありました。
担当者の経験に頼っている部分が多く、同じような作業でも、見積の基準が分かりにくいケースがありました。
さらに、譲受先の従業員からは、新しい体制への不安の声もありました。
「これまでの仕事の進め方は変わるのか」「評価や勤務ルールはどうなるのか」といった不安を抱える人もいました。
Kさんは、M&Aによって会社を引き継ぐことはできても、その後の統合を丁寧に進めなければ、従業員や顧客との関係に影響が出ると感じました。
そこで、無理に自社のルールを押しつけるのではなく、譲受先の良い部分を残しながら、少しずつ管理体制を整えていく必要があると考えるようになりました。
PMI専門家活用類型を知り、申請を決意
Kさんが、事業承継・M&A補助金「PMI推進枠(PMI専門家活用類型)」を知ったのは、M&A仲介会社からの紹介がきっかけでした。
M&A後の統合作業に悩んでいることを相談したところ、PMI専門家の活用に使える可能性がある補助金として、この制度を教えてもらいました。
当時のKさんは、PMIの必要性を感じていたものの、専門家に依頼することには少し迷いがありました。
M&Aの実行にすでに費用がかかっていたため、さらに外部支援の費用をかけるべきか判断に悩んでいたのです。
しかし、現場の課題をそのままにしておくことにも不安がありました。
案件管理や見積基準が統一されないままだと、社内で情報共有がしにくくなります。
また、譲受先の従業員の不安を放置してしまうと、せっかく引き継いだ人材が定着しない可能性もありました。
Kさんは、M&Aで事業を引き継いだ以上、その後の統合まで責任を持って進める必要があると考えました。
そこで、補助金を活用しながらPMI専門家の支援を受けることを決めました。
申請準備では、まずM&A後に発生している課題を整理しました。
具体的には、案件管理のばらつき、見積基準の不統一、従業員の不安、顧客対応の方針などです。
そのうえで、専門家に依頼する内容を明確にしました。
株式会社Nでは、主に次のような支援を受ける計画を立てました。
- 案件管理ルールの整理
- 見積基準の統一
- 従業員面談の実施
- PMIの進捗管理
- 顧客対応方針の整理
申請書を作成する過程で、Kさんは「自社が何に困っているのか」「専門家に何を支援してもらうのか」を改めて見直すことができました。
補助金の申請準備は簡単な作業ではありませんでしたが、PMIの目的や進め方を整理する良い機会にもなりました。
専門家と進めたPMIの取り組み
採択・交付決定後、KさんはPMI専門家と正式に契約し、支援を受けながら統合作業を進めました。
最初に行ったのは、両社の業務フローを整理することです。
案件の受付から見積作成、作業手配、点検報告、請求までの流れを確認し、どこで情報共有が止まりやすいのかを洗い出しました。
その結果、特に課題が大きかったのは、案件管理と見積作成の部分でした。
案件ごとの進捗や必要部品が担当者ごとに管理されていたため、社内全体で状況を把握しにくい状態になっていました。
そこで、PMI専門家の支援を受けながら、共通の案件管理表を整備しました。
案件名、担当者、作業予定日、必要部品、見積金額、作業状況などを一覧で確認できるようにし、管理者だけでなく現場の技術者も状況を共有しやすい形にしました。
また、見積作成の基準も見直しました。
これまでは、担当者の経験に頼って金額を決めることが多く、同じような作業でも見積にばらつきが出ることがありました。
そこで、作業内容や所要時間、部品代、出張費などを整理し、見積の考え方を社内で共有できるようにしました。
あわせて、譲受先の従業員との面談も実施しました。
新しい体制に対する不安や、これまで大切にしてきた仕事の進め方を聞き取り、統合後のルールづくりに反映できる部分を整理しました。
Kさんは、PMI専門家が間に入ったことで、社内だけでは話し合いにくかった内容も整理しやすくなったと感じました。
特に、従業員への説明やルール変更の進め方について、第三者の視点から助言を受けられたことは大きな安心材料になりました。
PMIの取り組みを通じて、株式会社Nでは、M&A後の統合作業を感覚だけで進めるのではなく、課題を整理しながら一つずつ進められるようになりました。
実績報告まで終えて感じた変化
PMI専門家による支援が完了したあと、Kさんは実績報告の準備に取りかかりました。
実績報告では、専門家との契約書や見積書、請求書、支払証憑、業務完了報告書などを整理しました。
また、PMIの取り組みで作成した案件管理表や見積基準の資料、従業員面談の記録なども確認し、補助事業として実施した内容をまとめました。
書類の整理には手間もかかりましたが、申請時にPMIの目的や支援内容を明確にしていたため、実績報告では「何を実施し、どのような成果があったのか」を振り返りやすかったといいます。
実績報告を終えたあと、株式会社Nでは、PMIで整備した管理ルールが少しずつ社内に定着していきました。
特に大きな変化は、案件管理の見える化です。
以前は、担当者に確認しなければ分からなかった案件の進捗や必要部品、作業状況を、共通の管理表で確認できるようになりました。
これにより、管理者が現場の状況を把握しやすくなり、急な問い合わせや追加対応にも落ち着いて対応できるようになりました。
また、見積基準を整理したことで、担当者ごとの判断に頼りすぎる状態も少しずつ改善しました。
作業内容、所要時間、部品代、出張費などをもとに見積を考える流れが共有され、社内で説明しやすくなりました。
従業員面でも、早い段階で面談を行ったことが大きな意味を持ちました。
譲受先の従業員の不安を聞き取り、必要な説明を重ねたことで、新しい体制への理解を得やすくなりました。
Kさんは、今回の取り組みを通じて、M&A後の統合では、業務ルールを整えることと同じくらい、人への配慮が大切だと感じました。
補助金を活用したことで、PMI専門家に相談するハードルが下がり、M&A後の統合作業を計画的に進めることができました。
Kさんにとって、今回のPMIは単なる補助事業ではなく、譲り受けた会社の人材や顧客を活かし、株式会社Nの次の成長につなげるための大切な取り組みとなりました。
まとめ|M&A後の統合は、譲り受けた事業を活かすための大切な取り組み
株式会社NのKさんは、事業拡大と技術者の確保を目的に、同業の会社を譲り受けました。
しかし、M&A後には案件管理の方法や見積基準、従業員対応など、想定していた以上に多くの統合課題が見えてきました。
そこでKさんは、事業承継・M&A補助金「PMI推進枠(PMI専門家活用類型)」を活用し、PMI専門家の支援を受けながら、現場統合と管理体制の整備に取り組みました。
専門家とともに業務フローを整理し、案件管理表や見積基準を整えたことで、社内で情報を共有しやすくなりました。
また、譲受先の従業員との面談を行ったことで、新しい体制への不安にも丁寧に向き合うことができました。
実績報告まで終えた今、Kさんは、M&A後の早い段階でPMIに取り組んだことが、事業を安定させるうえで大きな意味を持ったと感じています。
M&Aは、成立して終わりではありません。
譲り受けた会社の人材や顧客、ノウハウを活かすためには、その後の統合作業を丁寧に進めることが大切です。
M&A後の業務統合や従業員対応に不安がある場合は、PMI専門家の支援や補助金の活用を検討してみるのも一つの方法です。
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