中小企業新事業進出補助金の申請体験談|金属加工会社が医療・介護分野への新市場進出に挑戦した事例

中小企業新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新しい事業への挑戦を支援する補助金です。新市場への進出や高付加価値事業への取り組みを後押しする制度として、2025年4月22日に第1回公募が開始されました。

今回ご紹介するのは、大阪府東大阪市で金属部品の加工を行う株式会社Mの体験談です。代表のKさんは、先代から受け継いだ会社を守りながら、自動車部品や産業機械部品の下請け加工を中心に事業を続けてきました。

しかし、ここ数年は原材料費や電気代、人件費の上昇により、以前と同じように受注していても利益が残りにくくなっていました。さらに、売上の多くを限られた取引先に依存していたこともあり、「このまま下請け中心の仕事だけを続けていて、本当に会社を成長させていけるのだろうか」という不安を感じるようになっていました。

そうした中でKさんが考えたのが、自社の精密加工技術を活かした医療・介護分野への新市場進出です。医療機器や介護機器に使われる小型金属パーツの製造に取り組むことで、既存の取引先に頼りすぎない新しい売上の柱を作りたいと考えました。

ただし、新しい分野に進出するためには、高精度な加工に対応できる設備や検査体制、生産管理の仕組みを整える必要があります。自己資金だけで設備投資を進めるには負担が大きく、Kさんは金融機関からの紹介をきっかけに、中小企業新事業進出補助金の活用を検討することになりました。

株式会社Mでは、2025年6月17日の申請受付開始後、本格的に事業計画書の作成を進め、2025年7月15日の応募締切までに申請を行いました。その後、2025年10月1日に公表された第1回公募の採択結果で、補助金交付候補者として採択されます。

この記事では、株式会社Mがどのような課題を抱え、なぜ医療・介護分野への新事業進出を決めたのか、そして中小企業新事業進出補助金の申請準備でどのような点に苦労したのかを、体験談としてわかりやすくご紹介します。

中小企業新事業進出補助金の申請体験談|金属加工会社が医療・介護分野への新市場進出に挑戦した事例

下請け中心の金属加工業に感じていた限界

株式会社Mは、大阪府東大阪市で30年以上にわたり金属部品の加工を行ってきた会社です。先代の時代から、自動車部品や産業機械部品の加工を中心に受注しており、地域の町工場として着実に実績を積み重ねてきました。

代表のKさんは、48歳の2代目経営者です。若いころから現場に入り、旋盤加工やマシニング加工など、実際のものづくりに関わりながら会社の技術を学んできました。先代から会社を引き継いだあとも、「品質の良い部品を、納期どおりに納めること」を大切にしながら、既存の取引先との関係を守ってきました。

しかし、2025年1月ごろから、Kさんはこれまで以上に会社の将来について考えるようになっていました。

理由のひとつは、原材料費や電気代の上昇です。金属材料の仕入れ価格は以前よりも高くなり、工場を動かすための電気代も大きな負担になっていました。さらに、人件費の上昇も重なり、同じ量の仕事を受注していても、以前ほど利益が残りにくくなっていたのです。

取引先との関係は安定していましたが、受注単価を簡単に上げられるわけではありません。長年の付き合いがあるからこそ、価格交渉には慎重にならざるを得ませんでした。Kさん自身も、「仕事はあるのに、手元に残る利益が少ない」という状況に、少しずつ危機感を持つようになっていました。

もうひとつの大きな課題は、売上の多くを限られた取引先に依存していたことです。

株式会社Mでは、数社の大手メーカーや一次請け企業からの受注が売上の中心になっていました。これまでは、その関係が会社の安定につながっていましたが、一方で、取引先の生産計画や景気の影響を受けやすいという不安もありました。

実際に、2025年2月ごろには、主要取引先のひとつから「来期は一部の発注量を見直す可能性がある」と伝えられました。すぐに大きな減収につながる話ではありませんでしたが、Kさんにとっては、下請け中心の経営に頼り続けることのリスクを改めて感じる出来事でした。

「今はまだ仕事がある。でも、5年後、10年後も同じように受注が続くとは限らない」

Kさんは、そう考えるようになりました。

また、工場内の設備にも課題がありました。長年使ってきた加工機の中には、精度を保つためにこまめな調整が必要なものもあり、新しい分野の仕事に対応するには不安がありました。既存の仕事をこなすだけであれば何とか対応できても、より高い精度や安定した品質管理が求められる案件に挑戦するには、設備面でも検査体制の面でも見直しが必要だと感じていました。

特にKさんが気にしていたのは、若い従業員に将来性を示せているかという点です。現場には経験豊富な職人がいる一方で、若手の採用や定着には苦労していました。単に下請け加工を続けるだけでは、会社としての成長イメージを描きにくく、若い人材にとって魅力のある職場にしていくことも難しいと感じていました。

2025年3月に入るころには、Kさんの中で「今の仕事を守るだけではなく、新しい売上の柱を作らなければならない」という思いが強くなっていきました。

もちろん、これまでの取引先や既存事業を手放すつもりはありません。むしろ、長年培ってきた金属加工の技術を活かしながら、別の市場にも挑戦できないかと考えるようになったのです。

その中でKさんが注目したのが、医療・介護分野でした。

自社の強みである小ロット対応や精密加工の技術を活かせば、医療機器や介護機器に使われる金属パーツの製造にも対応できるのではないか。既存の自動車部品や産業機械部品とは違う分野に進出することで、取引先の幅を広げ、会社の将来につながる事業を作れるのではないか。

そう考えたことが、株式会社Mにとって新事業進出を検討する最初のきっかけになりました。

ただし、新しい分野に挑戦するには、設備投資や検査体制の整備が必要です。自己資金だけで進めるには負担が大きく、失敗した場合のリスクも小さくありません。

Kさんは、「挑戦したい気持ちはある。でも、資金面を考えると簡単には踏み出せない」と悩んでいました。そんなタイミングで知ることになったのが、中小企業新事業進出補助金でした。

医療・介護分野への新事業進出を考えたきっかけ

株式会社Mが医療・介護分野への進出を考えるようになったのは、2025年3月ごろのことでした。

きっかけは、知人を通じて受けた介護機器メーカーからの相談です。内容は、介護機器に使う小型金属パーツの試作加工についてでした。数量は多くありませんでしたが、寸法精度や仕上がりの安定性が求められる仕事で、Kさんは「自社の技術を活かせる分野かもしれない」と感じました。

それまで株式会社Mでは、自動車部品や産業機械部品の加工が中心でした。しかし、医療・介護分野では、小ロットでも高い品質が求められる案件があり、価格だけでなく技術力や管理体制が評価される可能性があります。

Kさんにとって、それは下請け中心の仕事から一歩踏み出すきっかけになりました。既存の加工技術を活かしながら、これまでとは違う市場に挑戦できれば、取引先を広げることにもつながると考えたのです。

一方で、すぐに事業化できるほど簡単ではありませんでした。医療・介護機器向けの部品を安定して製造するには、より高精度な加工に対応できる設備や、品質を確認するための検査装置が必要でした。また、小ロット案件を効率よく管理するためには、生産管理の仕組みも見直す必要がありました。

設備投資の見積もりを取ってみると、想定していた以上に大きな金額になりました。Kさんは、新事業に挑戦したい気持ちはあるものの、自己資金だけで進めるにはリスクが大きいと感じていました。

そんなとき、取引のある金融機関の担当者から紹介されたのが、中小企業新事業進出補助金でした。

2025年4月22日に第1回公募が開始されたこの補助金は、既存事業とは異なる新市場への進出や、高付加価値事業への取り組みを支援する制度です。Kさんは、単なる設備更新ではなく、医療・介護分野への新事業進出として計画を整理すれば、補助金を活用できる可能性があると知りました。

そこからKさんは、金融機関や支援機関に相談しながら、自社の強みや新事業の内容を少しずつ整理していきました。

「今ある技術を、別の市場で活かせるかもしれない」

そう感じたことが、株式会社Mにとって中小企業新事業進出補助金の申請を本格的に考えるきっかけになりました。

申請準備で苦労した事業計画書と資金計画

中小企業新事業進出補助金の申請に向けて、株式会社Mが本格的に準備を始めたのは、2025年5月ごろでした。

最初に取り組んだのは、医療・介護分野への進出が、単なる設備更新ではなく「新事業への挑戦」であることを整理することでした。Kさんは、これまで行ってきた自動車部品や産業機械部品の加工と、これから取り組む医療・介護機器向けの金属パーツ製造の違いを明確にする必要がありました。

特に悩んだのは、事業計画書の作成です。

新しい加工機や検査装置を導入したいという思いはありましたが、それだけでは補助金の申請内容として十分ではありません。なぜ医療・介護分野に進出するのか、その市場にどのような需要があるのか、自社の技術をどのように活かせるのかを、具体的な計画として説明する必要がありました。

Kさんは、金融機関や支援機関に相談しながら、自社の強みをひとつずつ見直していきました。小ロット対応ができること、短納期の相談に柔軟に対応してきたこと、長年の加工経験により精度の高い部品づくりができること。普段は当たり前だと思っていたことも、事業計画書に落とし込む中で、自社の強みとして整理できるようになりました。

また、資金計画の作成にも時間がかかりました。高精度加工に対応する設備、検査装置、生産管理システムの導入などを検討すると、投資額は決して小さくありません。補助金が採択されたとしても、すぐに入金されるわけではないため、自己資金や金融機関からの借入も含めて、事前に資金繰りを考えておく必要がありました。

2025年6月17日に申請受付が始まると、Kさんは必要書類の確認や電子申請の準備を進めました。見積書の内容を確認したり、導入する設備の仕様を整理したり、事業計画の数字を何度も見直したりと、通常業務と並行しながらの準備は想像以上に大変でした。

特に、売上計画や人員計画の部分では苦労しました。新事業によってどの程度の売上を見込むのか、いつごろから受注につながるのか、将来的に従業員の賃上げや採用につなげられるのかを、できるだけ現実的な数字で示す必要があったからです。

最終的に株式会社Mでは、医療・介護機器向けの小型金属パーツ製造を新事業として位置づけ、高精度加工機の導入、検査体制の強化、生産管理の見直し、販路開拓の取り組みを盛り込んだ事業計画を作成しました。

そして、2025年7月15日の応募締切までに申請を完了しました。

Kさんにとって、申請準備は簡単なものではありませんでした。しかし、事業計画書を作る過程で、これまで漠然と感じていた会社の課題や、今後目指すべき方向性がはっきりしていきました。

「補助金のために計画を作った」というよりも、「会社の将来を考えるために計画を整理できた」ことが、Kさんにとって大きな収穫でした。

採択結果の発表と交付申請に向けた準備

申請を終えたあと、Kさんはしばらく落ち着かない日々を過ごしていました。申請書類はできる限り丁寧に作成したつもりでしたが、本当に採択されるのかどうかは、結果が出るまでわかりません。

通常業務を続けながらも、Kさんの頭の中には常に「もし採択されたら、どの順番で設備を入れていくか」「資金繰りは問題ないか」「新しい取引先をどう開拓していくか」ということがありました。

そして、2025年10月1日。中小企業新事業進出補助金の第1回公募の採択結果が公表されました。

株式会社Mは、補助金交付候補者として採択されました。Kさんは大きな安心感を覚えましたが、同時に「ここからが本番だ」とも感じていました。

というのも、補助金は採択されたからといって、すぐに入金されるものではありません。採択後には交付申請があり、補助対象となる経費や設備内容、見積書、資金計画などを改めて確認する必要があります。

株式会社Mでも、導入予定だった高精度加工機や検査装置について、仕様や見積内容を再確認しました。医療・介護機器向けの部品製造に本当に必要な設備なのか、事業計画と整合しているのかを、ひとつずつ見直していきました。

特に注意したのは、発注のタイミングです。交付決定前に契約や発注をしてしまうと、補助対象外になる可能性があります。そのためKさんは、採択されたからといってすぐに設備を発注するのではなく、交付申請の手続きを進めながら、正式な交付決定を待つことにしました。

また、補助金は原則として後払いになるため、設備導入に必要な資金を一時的にどう用意するかも重要な課題でした。Kさんは金融機関と相談し、自己資金と借入を組み合わせながら、無理のない資金計画を立てていきました。

2025年12月1日の交付申請締切に向けて、Kさんは支援機関にも確認を取りながら、必要書類を整えていきました。採択された喜びはありましたが、実際に事業を進めるためには、まだ多くの手続きが残っていることを実感しました。

それでもKさんにとって、採択結果は大きな前進でした。これまで頭の中で考えていた医療・介護分野への進出が、少しずつ現実の事業として動き出したからです。

下請け中心の金属加工業から、自社の技術を活かして新しい市場に挑戦する。株式会社Mにとって、中小企業新事業進出補助金の採択は、その第一歩となりました。

まとめ|新事業進出補助金は、会社の将来を見直すきっかけになった

まとめ|新事業進出補助金は、会社の将来を見直すきっかけになった

今回ご紹介した株式会社Mの体験談は、下請け中心の金属加工会社が、中小企業新事業進出補助金を活用して、医療・介護分野への新市場進出に挑戦した事例です。

株式会社Mでは、長年にわたり自動車部品や産業機械部品の加工を行ってきました。しかし、2025年初めごろには、原材料費や電気代、人件費の上昇により、以前と同じように仕事を受けていても利益が残りにくい状況になっていました。

また、売上の多くを限られた取引先に依存していたこともあり、代表のKさんは「このまま下請け中心の事業だけで会社を成長させていけるのか」という不安を感じるようになっていました。

そこでKさんが考えたのが、自社の精密加工技術を活かした医療・介護機器向けの金属パーツ製造です。既存の技術を活かしながら、これまでとは異なる市場に挑戦することで、新しい売上の柱を作りたいと考えました。

もちろん、新事業を始めるには設備投資や検査体制の整備、生産管理の見直しが必要です。自己資金だけで進めるには負担が大きく、簡単に決断できるものではありませんでした。

そのような中で、2025年4月22日に第1回公募が始まった中小企業新事業進出補助金を知り、株式会社Mは申請に向けて動き出します。2025年6月17日の申請受付開始後、本格的に書類を整え、2025年7月15日の応募締切までに申請を完了しました。

申請準備では、単に「設備を導入したい」と伝えるだけではなく、なぜ医療・介護分野に進出するのか、自社の強みをどのように活かすのか、将来的にどのような売上や雇用、賃上げにつなげていくのかを整理する必要がありました。

その過程は決して簡単ではありませんでしたが、Kさんにとっては、自社の課題や強みを改めて見直す大切な時間にもなりました。

そして、2025年10月1日に公表された第1回公募の採択結果で、株式会社Mは補助金交付候補者として採択されました。ただし、採択されたからといってすぐに補助金が入金されるわけではありません。交付申請や交付決定、補助事業の実施、実績報告など、その後の手続きも慎重に進める必要があります。

中小企業新事業進出補助金は、新しい事業に挑戦したい中小企業にとって、大きな後押しになる制度です。一方で、単なる設備更新ではなく、「なぜ新事業に取り組むのか」「どのように会社の成長につなげるのか」を具体的に説明することが重要になります。

株式会社Mのように、既存事業に課題を感じながらも、自社の技術や経験を活かして新しい市場に挑戦したい企業にとって、この補助金は、資金面の支援だけでなく、会社の将来を考えるきっかけにもなる制度だといえるでしょう。

この記事の著者

高橋美咲

高橋美咲(資金調達マップ編集部)

助成金や補助金制度に関する情報をリサーチ・編集。制度の概要や申請時の注意点などを、わかりやすくまとめることを得意とし、事業者や個人に役立つ情報提供を目指している。

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