赤字決算でも通るビジネスローン|審査の見られるポイントと通過率を上げる実務

赤字決算だと、銀行もノンバンクも通らないのか。決算書の赤い数字を見ると、資金繰りの打ち手が止まります。とはいえ審査は「赤字=不可」ではありません。見るのは赤字の質、原因、そして返済原資の見通しです。準備と順番を整えれば、選べる選択肢は残ります。本稿は、審査で問われる論点、今日から用意すべき資料、申し込み先ごとの現実的な通し方を、編集部の取材知見にもとづいて要点整理します。
結論と要点
赤字決算でも通るケースと通らないケース
結論はシンプルです。赤字決算でも、返済原資の説明ができればビジネスローンは通ります。通らないのは、赤字の原因が恒常的で、今後もキャッシュフローが改善しないと見なされるときです。審査担当者は損益計算書の最終行だけでなく、営業利益と営業キャッシュフロー、売上総利益率の直近推移、販管費の固定・変動の内訳、資金繰り表の3〜6か月先の姿を重ねて見ます。ここで重要なのは、「赤字の質」を定量で語れるかに尽きます。単年度の一過性損失(設備更新、統合費用、災害・不測の仕入高騰など)であれば、翌期計画や契約見込みの提示で評価は変わります。受注が既に決まっている案件の契約書、入金サイトを裏づける発注書、限界利益を示せる見積台帳の提示は、赤字の説明を「返済可能性」の言語に置き換える道具です。
借入先ごとに期待できる審査の観点も異なります。銀行や信用金庫は、返済原資を「営業キャッシュフロー+運転資金の回収速度」で見ます。回転期間が長く在庫が重い事業は厳しめですが、売掛金の回収が確定的でファクタリングや保証付き制度融資でつなげるなら、提案の余地が生まれます。ノンバンクのビジネスローンは、スピードと柔軟性が相対的に高い一方、金利は上がり、極度額は事業規模のレンジで決まります。ここでも鍵は、既存借入の返済状況、税金・社会保険の納付状況、そして直近の入出金の整合です。滞納がある場合は延滞解消の計画を先に示してください。社長の個人信用も無関係ではありません。代表者保証を求められる局面では、個人側のカード延滞の有無や住宅ローンの返済態度も見られます。
実務では、提出順と話し方が通過率を左右します。最初に「赤字ですが」と言ってしまうより、先にビジネスモデルと粗利の源泉を短く説明し、次に受注の見込みと回収スケジュールを示し、その上で赤字の原因を数値で分解します。たとえば、原価率の一時的上振れが5ポイント、販管費の人件費が新規受注の先行投資で3ポイント、設備更新費が単年度で計上、という具合に区切ると、審査側は「継続的な赤字」ではなく「分解可能な要素」の集合として理解します。このとき資金使途と返済財源の関係が噛み合うと、面談は前向きに進みます。資金使途が運転資金であれば、売上の季節変動と入金タイミング、既存取引の回収サイトを1枚で示すと有効です。
もう一点、赤字決算の局面では「社内の整備」が結果に直結します。試算表が月次で最新化されているか。外注費・交際費・雑費の名目で実質の投資が混ざっていないか。合意済みの価格改定の証憑が残っているか。これらが揃えば、赤字でも「管理の届いている会社」と評価され、対話は進みます。逆に、試算表が3か月以上遅れている、資金繰り表が存在しない、税・社保の納付遅延が常態化している、という状態は、ノンバンクでも厳しくなります。赤字が問題なのではなく、可視化と説明ができないことが問題です。準備を先に終えると、同じ赤字でも結論が変わります。
審査の見方

審査の見方:赤字の「質」をどう評価するか
審査では、損益の最終行よりも「赤字の原因が何で、次期にどう収束するか」を細かく見ます。まずは売上総利益率の推移です。直近4四半期または12か月移動平均で、原価率の一時上振れなのか、恒常的な粗利の劣化なのかを切り分けます。次に販管費の固定費と変動費を分け、固定費の増加が将来の売上獲得に結び付く投資か、単にコスト肥大かを確認します。ここで採用・広告・開発費などの投資は、回収時期と金額を示す資料があると説明力が上がります。さらに営業キャッシュフローを重視します。黒字でも売上債権・棚卸資産が積み上がれば資金は不足します。回転期間(売上債権回転日数・棚卸資産回転日数・仕入債務回転日数)を出し、今期と前年で差がどれだけあるかを表にして添付すると、資金需要の妥当性が伝わります。
赤字の質を示すうえでは、一過性損失の扱いが分岐点です。設備入替や拠点統合、退職給付の特別損失、為替差損などの非反復要因は、注記とともに来期計画に反映させます。たとえば1,200万円の設備更新費を単年度で計上した結果、経常赤字になった場合でも、更新後の減価償却費と生産性向上で限界利益が何ポイント改善するのかを数値で置きます。受注の裏取りも重要です。3か月以内に入金される発注書、請書、見積書、納品スケジュールを合わせ、入出金の短いタイムラインを提示します。審査側は「いつ、いくら、どの口座に入るのか」を知りたがります。銀行取引明細のCSVを月次で提出し、売掛金の消し込み規律が保たれていることを示すと、返済原資の信頼性が上がります。税・社会保険の納付状況もチェックされます。期末に未払が残っていると印象は下がります。分納中であれば、納付計画書と通帳の引き落とし記録を添えて、延滞が解消に向かっている事実を示します。
経営者保証や代表者の個人信用情報も見られます。個人クレジットの遅延、携帯割賦の延滞はマイナスです。直近24か月の延滞がないこと、住宅ローンの返済が滞りなく行われていることを確認してください。担保の有無については、運転資金のビジネスローンでは無担保・第三者保証なしが一般的ですが、売掛金の譲渡登記や在庫の動産譲渡登記で補完できるケースがあります。提出の順番にも工夫が要ります。最初に月次試算表と資金繰り表、次に粗利の源泉を示す受発注の台帳、最後に赤字の要因分解という順で資料を重ねると、赤字という事実が「返済可能性の説明」へと転化します。面談では、短い時間で結論まで辿り着ける構成が評価につながります。
- 粗利率推移は四半期別に折れ線と表で提示。前年同月比も併記。
- 回転期間は日数で明示。売掛60日→45日など改善があれば強調。
- 一過性損失は科目名・金額・発生日・再発可能性を列挙。
- 入出金表は週次で8〜12週先まで。入金根拠の資料を紐付け。
- 納税・社保は完納証明または分納計画と実績を添付。
申し込み先の順番

申し込み先の順番:銀行/信用金庫/ノンバンクのリアル
申し込み先は「最短で通る所」ではなく「次回以降の選択肢を減らさない順番」で並べます。第一候補は地元の信用金庫や取引実績のある銀行です。制度融資やプロパー融資を含め、返済原資を営業キャッシュフローで説明できれば、赤字期でもつながる可能性があります。ここで否決を出すと情報が共有され、短期に同系の金融機関へ出すのが難しくなります。したがって、最初は「相談」で入り、月次の試算表整備と資金繰りの見える化を並走し、稟議の前段で論点を潰します。次に検討するのが、保証付きの制度融資です。信用保証協会の審査は、資金使途の妥当性と納税状況、経営改善の取り組みを重視します。赤字決算でも、経営行動計画の提出と月次のモニタリング体制があれば道は開けます。
ノンバンクのビジネスローンは、スピードが強みです。即日〜数営業日で可否が出て、短期の運転資金の谷を越えるには有効です。ただし金利は上がり、極度額は年商や入金実績に依存します。複数社へ同時申込をすると、照会履歴が短期に重なり、むしろ可決率が下がる場合があります。申込は段階的に行い、1社の可否と条件を見てから次へ進めます。ファクタリングや売掛債権担保融資(ABL)も視野に入ります。決済サイト60日などの長い取引では、請求の確実性が高いほど条件は良くなります。手数料は資金調達コストとして、粗利に与える影響を前もって試算し、価格改定や支払いサイト交渉とセットで考えます。
実務では「今すぐ必要な額」と「3か月後までの必要額」を分けて考えます。たとえば今週500万円、翌月に追加で800万円という具合です。前者はノンバンクやファクタリングで機動的に確保し、後者は金融機関の制度融資で低コストに組み替える、という二段構えが典型です。リファイナンスの前提として、既存借入の返済遅延を出さないことが最優先です。引き落とし日前に入金が不足しそうなら、先に取引金融機関へ相談し、約定変更または短期証書で橋渡しを検討します。情報の非対称を減らすほど、条件は良くなります。
- 最初は取引のある信金・銀行と制度融資の可否を並走で確認
- ノンバンクは申込を段階化。審査履歴を短期に集中させない
- ファクタリングは売掛先の信用と請求フローの整備が鍵
- 二段構え(短期でつなぎ→低コストへ置換)を前提に資金計画を作成
- 既存返済の遅延は厳禁。不足が見えた段階で事前連絡
必要書類と提出順

必要書類と提出順:赤字期でも“読まれる”束ね方
書類は「結論→根拠→補足」の順で束ねます。最初に資金繰りの見通しを1枚で示し、次に月次の実績、最後に補足となる契約や台帳を付けます。提出の1ページ目は週次の入出金予定表です。8〜12週先まで、入金の根拠資料と紐づけて並べます。たとえば10月7日に1,280,000円の入金予定があるなら、受注番号、請書、納品予定、支払いサイト(末締め翌月25日など)を記し、入金先口座まで明確にします。2ページ目は資金使途と調達計画の整合を図にしたものです。たとえば「仕入れ前倒し420万円」「人件費増加120万円」「既存借入の返済85万円」など、金額と発生日を線でつなぎ、今回の借入でどこを賄い、来期の営業キャッシュフローでどこを返すのかを可視化します。ここまでで審査側が“全体像”を掴める構成にします。
3ページ目以降は月次試算表・推移表です。売上、売上総利益、販管費、営業利益の4項目は棒グラフにして前年同月比を並べます。粗利率の変化は本文で説明すると冗長になりがちです。図表で先に見せ、本文は要点だけに絞ります。さらに回転期間を日数で付記します。売掛金回転が60日から45日に改善、棚卸資産回転が68日で横ばい、仕入債務回転が35日から31日に短縮というように、変化の向きが一目で伝わる形にします。受注台帳は前受・請書・納品の紐づけが最重要です。担当者名と連絡先、発注企業の与信区分、キャンセル条項の有無を列挙し、回収可能性を担保します。税・社会保険は納付証明または分納計画を添え、未払計上との整合を明確にします。直近の銀行口座明細CSVは月次で提出し、売掛金の消込規律が崩れていないかを示します。クレジットカードやリースの引き落とし遅延がある場合は、解消済のエビデンスを合わせて提示します。
- 表紙:8〜12週の資金繰り予定表(入金根拠の資料番号を付す)
- 資金使途・調達計画:金額と時系列を線で可視化
- 月次試算表・推移:前年同月比の図表+回転期間の一覧
- 受注・請求・回収の台帳:与信区分とキャンセル条項を明記
- 税・社保:完納証明または分納計画と実績、引落の記録
- 口座明細CSV:主要口座は最低3か月分。入出金の整合を確認
体験談

体験談:東京都台東区の金属加工業が“赤字期”につないだ800万円
2024年6月12日、東京都台東区の金属加工業(社員18名・年商2.6億円)を訪ねました。決算は2024年3月期が経常損失▲680万円。要因は設備入替による特別損失1,240万円と、材料費高騰に伴う粗利率の悪化でした。社長の田口さん(56歳)は「8月の繁忙期に仕入が集中し、7月末に資金が谷になる」と具体的に話します。手元資金は6月末で1,120万円、7月25日の引き落としで賃金1,480万円、家賃・水道光熱費を含め計1,940万円が出ていきます。入金の山は8月20日〜9月5日で、主要先A社から3,200万円、B社から1,150万円の予定。支払いサイト45日のため、7月の支出を吸収しきれません。必要な資金は最大で約800万円と見積もりました。
私たちは6月14日に地元の信用金庫へ「相談」で訪問。最初に8〜12週の資金繰り予定表を提出し、A社の発注書(No.24-0611-17、総額3,200万円、納入7月末〜8月上旬、検収後45日)と請書を添えました。次に月次試算表と粗利率の推移、材料費上昇の根拠として仕入先の価格改定通知(2023年11月・2024年4月)を提示。7月1日付で単価見直しを行い、粗利率が28.6%→31.4%へ回帰する試算を図表で説明しました。信用金庫側は「制度融資での検討」を提案。信用保証協会への申し込みを並走し、納税の分納計画書(法人税・消費税計210万円、8月から6回分割)と通帳の引き落とし記録を提出しました。6月26日に一次可決、7月2日に稟議通過、7月5日に当座へ800万円着金。利率は年2.3%、期間3年、元金据置6か月の条件です。
着金までの3週間で、私たちが最も重視したのは回収見込みの裏取りでした。A社・B社の窓口担当にメールで支払いスケジュールを再確認し、返信のスクリーンショットを台帳に保存。売掛金回転は60日から45日に短縮する運用へ改め、請求締めと検収のタイムラグを詰めました。結果として、7月25日の給与日は既存の極度型ローン(極度額1,500万円、金利年4.8%)から一時的に300万円を利用、8月末の入金で速やかに返済。9月5日の入金までの間は仕入先との支払いサイトを31日から38日に再調整し、キャッシュの凹みを回避しました。社長は「赤字の原因を数字で分解し、回収と支払いの線を引いたのが効いた」と語ります。現場の温度感としても、日次の入出金ボードを作り、担当者が金額と予定日を声に出して確認する運用は、翌月以降のズレ防止に役立ちました。
注意が必要なケース

注意が必要なケース:申し込み前に立ち止まるべき条件
いくつかの条件では、申し込みより先に整備が必要です。
第一に、税金・社会保険の滞納が慢性化している場合です。分納中であっても、納付計画と実行の記録が揃わなければ、返済原資の信頼性は高まりません。
第二に、個人信用情報で直近24か月に遅延が散見されるケースです。携帯割賦やクレジットの延滞でも、スコアに影響します。先に延滞解消のエビデンスを整えましょう。
第三に、入出金の起点が複数口座に分散し、資金繰りが現場任せになっている場合です。
少なくともメイン口座へ集約する運用を1か月走らせ、CSVで整合を示します。第四に、売上の計上基準と請求・回収のタイミングが混在している業態です。検収基準と出荷基準が混ざっていると、在庫や未成工事支出金が膨らみ、キャッシュの見通しが立ちません。ここは会計基準の統一から始めます。
また、スピード重視で高金利の短期資金に過度に依存すると、粗利を食い潰すリスクがあります。見積時点で手数料と金利を年率換算し、売価への転嫁可否を判断します。極度型ローンの同時申込は照会履歴が重なり、与信に不利に働く場合があります。順番を決め、可否と条件を見てから次へ進むのが安全です。仕入先への支払い延伸も、信頼を毀損します。延伸は一度限り、かつ書面で合意し、品質や納期への影響を最小化する代替策(配送ロットの見直しや代替材料の提案など)をセットで提示します。最後に、計画に“人の稼働”を織り込むことを忘れないでください。請求書の発行、検収確認、督促の電話は誰が、いつ、どの手順でやるのか。業務手順書を簡易に整備し、属人化を減らすほど、資金計画の精度は上がります。資金は数字だけで動かず、運用の精度で守られる、この一点をチームで共有してください。
よくある質問

よくある質問:審査・必要額・金利の考え方
Q1. 赤字決算でも銀行は本当に検討してくれますか。
A. 売上と粗利の回復見込みが数字で説明され、入出金が週次で可視化されていれば、検討余地はあります。制度融資や保証付きの枠から入るのが一般的です。
Q2. 必要額はどう見積もるべきですか。
A. 「最大の凹み」を基準にします。週次の入出金を並べ、最低残高がマイナスになる週の差額に、安全余裕を10〜20%上乗せします。
Q3. ノンバンクの金利はどの程度ですか。
A. 期間や属性で差があります。見積の段階で年率換算し、売価や粗利への影響を必ず試算してください。
Q4. 同時に複数へ申し込むのは有利ですか。
A. 照会履歴の集中は逆効果になり得ます。段階的に申込、可否と条件を見極めてから次に進むのが良いです。
Q5. どの書類が最も重要ですか。
A. 8〜12週の資金繰り予定表と、その裏付けとなる受注・請求・回収の台帳です。ここが読みやすいほど、面談はスムーズになります。
申込の進め方と面談のコツ

申込の進め方と面談のコツ:3フェーズで“早く・正確に”通す
申込は「事前整備→初回相談→本審査」の3フェーズで考えます。事前整備では決算書と試算表を揃えるだけでなく、8〜12週の資金繰り予定表、受注・請求・回収の紐づけ台帳、税・社会保険の納付状況、主要口座の入出金CSVを準備します。加えて、借入の目的と返済原資を1枚にまとめた「返済ストーリー」を用意します。ここでは売上の回復仮説を数字で示し、粗利率の根拠、コスト削減の実行計画、回収条件の見直しなどを箇条書きで短くまとめます。初回相談の場では、求められた書類をすべて出すのではなく、冒頭の3分で全体像が掴める資料(資金繰り予定表と返済ストーリー)から提示し、その後に裏付け資料へ誘導します。順序立てて見せることで説明時間が短くなり、質問が具体的になります。本審査フェーズでは、提出物の整合が重視されます。試算表の売上と口座入金の突合、買掛と仕入実績の整合、在庫の増減と受注の前後関係が崩れていないかを再確認し、差異は注記で明示します。差異が生じた月は原因を一行で書き、次月以降の是正策を添えます。面談では、数字の読み方を相手に合わせることが重要です。与信担当者は回転期間や返済余力の安定性に関心を持ちます。CFOや経理が同席できない場合は、現場の担当者でも日次・週次の運用手順を説明できるようにリハーサルを行います。最後に可否に直結する「ボトルネック」を自ら提示しておきます。例えば、特定の大口先への依存や、仕入価格の変動、納税資金の捻出法などです。自ら課題を開示し、対策案と期日を並べて語る姿勢は、審査の信頼を高めます。質問が出たら、現場の画面や台帳をその場で開いて答える準備をしておきましょう。資料は紙とPDFの両方を整え、ファイル名は「日付_資料名_バージョン」で統一します。差し替えが発生したら、旧版の保存先と変更点を送付メールに明記し、混乱を避けます。
- 事前整備:資金繰り予定表・返済ストーリー・口座CSV・納付状況・受注台帳
- 初回相談:冒頭3分で全体像、次に裏付け資料。差異は注記で一行説明
- 本審査:回転期間、返済余力、在庫と受注の整合を重点チェック
- 面談運用:資料は紙/PDF併用、ファイル名は日付で統一、差し替えは変更点を明記
チェックリストと雛形

チェックリストと雛形:そのまま使える“提出準備”の型
提出前の最終確認はチェックリストで機械的に行います。まず資金繰り予定表は週次で12週先まで作成し、各入金の根拠に資料番号を付けましたか。請書、納品書、検収書、見積書、契約書のいずれかで裏付け、支払サイトと入金口座を明示していますか。次に返済ストーリーの整合です。借入金額、使途の内訳、返済期間、毎月の元利金額と、営業キャッシュフローの見通しが同じスケールで比較できる図になっているか確認します。第三に、月次試算表と口座入出金の突合です。主要取引先からの入金は摘要欄の記載と消込台帳で一致していますか。消費税や源泉税など公租公課は滞納の有無だけでなく、納付期日と金額の履歴を添え、分納中であれば計画書と実績を並べます。第四に、売上総利益率の変化を説明できるかです。材料費・運賃・外注費の単価改定や歩留まりの改善、構成比の変化を表で示し、過去6か月と今後3か月の見通しを一本の軸で比較します。最後に、稟議の論点になりやすい「集中度」を示します。上位3社の売上構成比、単一製品依存の割合、為替・相場の影響などです。ここは対策と期限を併記し、依存の軽減に向けたアクション(新規先の開拓数、価格改定の実施日、代替材料の承認状況)を、進捗率で管理します。以下に、すぐ使える雛形を載せます。セルの文言は自社の実務用語へ置き換え、提出のたびに同じレイアウトで更新してください。審査側が前回との違いを追いやすくなり、コミュニケーションのロスが減ります。余談ですが、私は面談の前日にA4紙で「3分説明版」を一度だけ声に出して読みます。テンポが悪い箇所が見つかりやすく、当日の質疑が短くなります。
| 区分 | 項目 | 記入例 | 添付/根拠 |
|---|---|---|---|
| 資金繰り | 入金予定 | 10/7 1,280,000円(A社検収後45日) | 請書No.24-0611-17、検収メール |
| 資金繰り | 出金予定 | 10/25 給与1,480,000円、10/28 仕入2,100,000円 | 給与台帳、支払予定表 |
| 使途 | 内訳 | 仕入前倒し420万円/人件費増120万円/既存返済85万円 | 見積、発注書、返済予定表 |
| 返済 | 原資 | 営業CF:月次+120〜+160万円見込み | 粗利改善試算、価格改定通知 |
| 整合 | 口座突合 | 主要口座3か月CSVで入出金照合済 | CSV、消込台帳 |
| 税・社保 | 状況 | 分納中(全6回/残4回) | 分納計画、納付書控え |
| 集中度 | 上位3社比率 | 72% | 売上先別推移表 |
- 資金繰り予定表:週次12週、各入金に資料番号
- 返済ストーリー:金額・期間・原資を同スケール図で比較
- 口座突合:主要口座CSVと消込台帳で一致を確認
- 公租公課:滞納有無、納付履歴、分納計画の3点セット
- 集中度:上位先比率と軽減アクションの期限・進捗率
費用の年率換算と価格転嫁の判断

費用の年率換算と価格転嫁の判断:見積段階で“粗利を守る”計算手順
金利や手数料は見積段階で年率換算し、粗利への影響を定量化します。計算はシンプルで、調達額に対する総費用(利息+事務手数料+印紙代等)を期間で割り、年率に引き直します。例えば、調達800万円、期間3年、金利年2.3%、事務手数料2.2%(初回一括)の場合、初年度の実効負担は名目金利に初回手数料を年換算したものが上乗せされます。ここで重要なのは、回転期間の短い商材では期間1年未満の実行もあり得るため、月次のキャッシュフローに対して「1円あたりの資金コスト」を並べることです。見積書の単価に転嫁できるかは、この数値と粗利率の回復見込みで判断します。価格転嫁が難しい受注では、ロットの見直し、配送頻度の調整、代替材料の提案などで原価を下げる余地を先に試算し、審査の場でも説明できるようにします。極度型ローンや短期のつなぎは、使う期間をあらかじめ区切り、着金日・返済日・入金日をカレンダーで重ねます。重なる日には残高のバッファを10〜20%確保し、延滞やリボ転化のリスクを避けます。複数の見積が出たら、総費用を年率換算に統一し、条件表に横並びで記載します。審査側にとっても、資金の使い方が利にかなっているかを判断しやすくなり、可決のスピードが上がります。値決めの最終判断では、営業と製造・購買の三者で「粗利ライン」を共有し、採算割れの受注は受けないルールを徹底します。
- 総費用=利息+事務手数料+印紙等。期間で割り年率化。
- 1円あたりの資金コストを算出し、単価転嫁の可否を判断。
- 短期資金は期間を区切り、着金・返済・入金を重ねて確認。
- 見積比較は年率換算に統一、横並びで条件表化。
利用をおすすめしないケースと注意点

ビジネスローンが適さない局面:制度融資・再生手続・資本調達を優先すべき場合
すべての赤字期にビジネスローンが有効とは限りません。まず、債務の元本圧縮や抜本的な条件変更が必要な段階では、追加の短中期借入は返済原資をさらに圧迫します。売上の反転見込みが薄く、固定費の削減余地も限定的で、営業キャッシュフローが3か月以上連続でマイナスという企業は、自治体の制度融資や信用保証協会付きの借換、もしくは私的整理の枠組みを先に検討したほうが負担が軽くなります。税や社会保険料の滞納に対して分納合意が得られていない場合も、金融機関は新規与信に消極的です。まずは所轄庁と納付計画の確定を行い、履行実績を1〜2回積み上げてから申込に進むのが現実的です。売掛の集中度が極端に高い事業や、在庫回転が急に悪化している業態では、短期資金で当面を凌いでも、翌月以降の資金繰りギャップが広がる可能性があります。こうした場合は与信枠よりも、取引条件の見直しや在庫の縮減、ファクタリングなどのオフバランス手法と併用して、構造的な改善を先に実行する順番が大切です。また、相見積で年率差が小さいのに、初回手数料や印紙、保証料の有無で実効負担が大きく変わる契約も見受けられます。見かけの低金利に引かれて契約すると、期中の繰上返済で違約金が発生し、かえって総費用が上振れします。借入は「額」「期間」「柔軟性(繰上条件・極度型の可否)」の三点セットで比べ、返済原資のブレが大きいときは、金利が数十bp高くても柔軟性を優先したほうが資金繰りは安定します。最後に、経営者保証や自宅担保の差入れ判断です。担保提供で金利がわずかに下がっても、将来の選択肢を狭める場合があります。新規投資や事業譲渡の余地を残したい計画では、保証軽減の選択肢を併記し、無理のない範囲で調達を組み合わせるほうが実務的です。
- 3か月連続の営業CFマイナスは、借換や再生スキームの検討を先行
- 公租公課は分納合意と履行実績を作ってから申込へ進む
- 集中度と在庫回転が悪化している場合は条件見直しを優先
- 見かけの金利よりも繰上条件や極度型の柔軟性を重視
- 保証・担保は将来の選択肢とのトレードオフで判断
まとめと次のアクション

今日から着手する3日間プラン:数字で整え、順序で見せる
赤字決算期でも、資金の通し方は整え方で変わります。初日は主要口座の入出金CSVをダウンロードし、売上と入金の突合から始めます。同時に直近12週の資金繰り予定表を作り、入金の根拠資料に番号を振って紐づけます。二日目は返済ストーリーの作成です。調達額、使途、返済期間、月次の元利支払、営業キャッシュフローの見通しを一枚に収め、差異が出る月には原因と是正策を一行で記します。三日目は面談の準備を行います。冒頭3分で全体像を説明する台本を作り、裏付け資料の提示順とファイル名の統一を整えます。価格転嫁が難しい案件については、原価の見直し案と期限を添え、注文単位や配送頻度の変更を交渉中であることを示します。ここまで整えば、審査側は「整合の取れた運転」と受け止めやすくなります。制度融資や借換の可能性があるなら、同時並行で窓口の初回相談を予約し、必要書類の差を一覧化しておくと動きが効率的です。最終的に選ぶ調達手段は、年率換算の総費用と柔軟性のバランスで決めます。短期のつなぎが必要な期間は明確に区切り、着金日と返済日、主要な入金日を一つのカレンダーに重ねて、残高のバッファを確保します。小さな手順の積み重ねが、与信判断のスピードに直結します。足元の数字を整え、順序立てて見せる。この基本を徹底することが、赤字決算期の資金調達を前に進める最短距離です。
- Day1:口座CSVと資金繰り12週、入金根拠に資料番号
- Day2:返済ストーリー1枚化、差異は原因と是正策を一行で
- Day3:面談台本3分、資料の提示順とファイル名を統一
- 制度融資・借換も同時相談、要件の差分を一覧化
- 年率換算の総費用と柔軟性で最終決定、バッファを残す
